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Paul Krause

2024年10月5日 (土) 19:23

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バリウム検査を初めてやった。健康診断で、たぶん年齢によって決まっている項目なんだと思う。
噂に違わずバリウムは不味かった。「バリウムを美味しくすることは可能だが、美味しくしてしまうと胃が食べ物だと判断し、せっせと消化してしまう、つまり活発に動いてしまうので、それだと検査できない」と聞いたことがある。「おやおや!おいしいのが来たぞ!わぁーい活動しまーーーす!」ってなってる胃、かわいい。

まずはなんかしゅわしゅわする粉を飲む。私が、たぶんかなり不安そうな顔をしていたせいで、看護師さんが語尾にぜんぶ「大丈夫です」を付けて話す。「あまり口の中で溶かさずに、サッと飲み込んでください、大丈夫です」、「これがバリウムです、持ってください、大丈夫です」、「台の上に乗ってください、大丈夫です」みたいな感じ。

毎年いっているところは健康診断だけをやる施設(病院ではない)なので、バリウム検査に限らず先生も看護師さんも、みんなベルトコンベアの上を転がすように対応する。私にとっては年に一度の健康診断だが、みなさんにとっては1日数百人の中の1人なのだ。私はこういう状況が、結構好きだ。楽だな、と思う。何にでも感情的になったり、情緒的になったりしているとしんどい。

バリウム検査を考えた人は酔っていたんじゃないかと思うくらい、珍妙な検査だった。こんな訳のわからないものを飲んで、下剤で無理やり出すって、どうかしている。こんなんシラフのときに思いつける?酔ってたか、二日酔いか、もしくはヤケクソだと思う。
バリウムは造影剤らしい。なるほど、造影剤ね。どおりで粘度が要るわけだ。これが流れたり、留まったりする特性を活かして撮影をしている。なので乗っている台自体が傾き、倒れ、動く。私もじっとしていればいいということはなく「そのまま一回転してまたうつぶせに」、「おしりを少し上げて」、「もう少し下げて」、「はい息をとめて」などとヤイヤイ言われる。チンタラやっているとバリウムが流れて行ってしまうからだと思うけど、先生はものすごくテキパキ指示し、発音も発声も良い。早口なのに聞き取りやすく、噛みもしない。これ、下手な人めっちゃいそう。先生が医者になるために努力してきたであろうことと、バリウム検査を上手に出来ることとは、まったく比例していないだろう。そう思うと検査中に笑いそうになり、懸命に堪えた。先生は自分がバリウム検査が得意だってことに、何歳ぐらいのときに気づいたんだろう。先輩に褒められたりしたのかな。「お前、声が通るから検査向いてるぞ」とか言われたんかな。あ、医師じゃなくてレントゲン技師なのかな。レントゲン技師ってお医者とは違うのよね?

昔バイト先の女の子で、確か放射線技師を目指して学校に通っている子がいたよな、と思い出す。すごく穏やかで、人当たりの良い人で、好きだった。声がめちゃくちゃ小さくて、呼びかけられているのに気づけないことが多かった。「のんちゃん」と呼ばれると「ごめん、何回呼んだ?ごめんね」と応えていた記憶がある。彼女はふふふと笑うだけで、何回呼んだかは別に言わなかった。
放射線技師になれたかな。元気にしてるといい。

「おつかれさまでした。そこでうがいをして。下剤を渡しますから説明を聞いて帰ってください」と言いに出てきてくれた先生は、白髪まじりでがっしりした体型の男性だった。50代後半くらいに見える。お医者じゃなければ声優か、実況アナウンサーとかも向いていそうですよ、と思いながら私はお礼を言った。
バリウムは唇にくっついてぱきぱきに固まっている。珍妙な検査だったな。

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