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電池はもうひとつ買う
2026年7月10日 (金) 21:29
成り行きでコンパクトデジタルカメラを買った。成り行きとしか言いようのない買い物だ。でも良い買い物をした。
写真を撮るのは子どものころから好きだったと思う。父が写真を撮る人だったので(そういう世代の人)カメラは身近だったし、被写体としてもよく撮ってもらったと思う。そういえば祖父もカメラを持っていたんじゃなかったか。家族写真もたくさんある。私は姉と弟がいる3人姉弟の真ん中っ子だが、3人ともそれぞれにアルバムがある。母がフェルトで作ったパッチワークが表紙についたぶ厚いやつ。………笑っちゃうぐらい大切に育ててもらっている。
小学生になるころにはFUJIFILMのインスタントカメラがあって、学校行事や家族でキャンプや旅行にいったりするときも持ち歩いていた。現像してプリントした写真を見た父は「のぞみは写真上手や」とたまに言ってくれた。まぁ子どもが撮るインスタントカメラの写真なんてたかが知れているので、たぶん「大きくブレていない」「何を撮りたいかが伝わる」程度の意味だったと思うけど、それでも嬉しかった。
高校生くらいになるとトイカメラが流行って、ハリネズミの絵が描いてある小さいカメラを友だちと贈りあったりした。変わった形のフィルムを入れるやつ、あのフィルムなんやったんやろ、110フィルムやったんちゃうかな。
専門学校に入るとオプションの授業でカメラを習った。通常の授業は午前と午後の2コマで、カメラの授業はそのあと、夜間にあった。数万円くらい追加で授業料を払えば所属している学科は関係なく受けられたので、ファッション科やイラスト科の子たちもいて楽しかった。そんなに高い授業料じゃなかった気がする、バイト代で払ったのか、母に頼んだのかは覚えていない。
御茶ノ水の本校の地下にスタジオがあって、フィルムとデジタルを両方やった。あのとき使ってたフィルムカメラがNikonのFAだった気がする。暗室もあったけど、現像までは習わなかった。デジカメのシャッターを開きっぱなしにして懐中電灯で絵を描くみたいな技法も教えてもらった。ある友人は「こんなの別にフォトショで描けばすぐでしょ」と笑う同級生を尻目に、自分の背中を撮ってそこにライトで羽を描いた長時間露光の作品を撮った。印刷してもらったそれが、まだ手元にある。「フォトショで描けばすぐ」は全く誤った指摘ではないものの、自分の背中の高さを覚えておいて、そこに光を載せることがそう簡単ではないことを習ったうえで私はその作品を見たので、知識があるだけで感動できることは増えるんだな、と思った。
授業の最後にはそれぞれ写真集を作るという課題があった。私は当時ハマっていたモノクロのフィルム(何を撮っても深刻な感じがするのが気に入っていた、布団を撮っただけでもやけにシリアスになる)で撮った写真を家族に宛てた手紙に添えたような作品を作り、封筒を模したケースに入れるデザインにした。先生は「故郷がある人ってズルいよ、不覚にも最後ウルッときてしまった、そのわりに写真が冷たいのがかっこいい、もっとあたたかい写真を撮ってくれてたら嫌いになれたのに」と講評をくれた。うれしかった。専門学生時代はあらゆる作品を提出して、全部に講評をもらったけど、過去一嬉しかった講評かもしれん。今思えばあれは憎たらしさを褒められた最初で最後のことだったんじゃないかと思う。そう考えると、写真を撮ることと、それを何らかの形でひとまとめにして発表することは、とても本質的なことかもしれない。人間のぜんぶが、否応なしに出る。
2週間ほど前、友人が「神戸に行くから遊ぼう」と連絡をくれ、一緒に観光プランを考えたけど、申し訳ないぐらい何も思いつかなかった。根本的に私が神戸を観光する場所だと思っていないせいだ。神戸は住む街。おいしい洋食屋とかなら候補をたくさん出せるけど、観光はアテンドできない。行きたいところがあるなら付き合えるけど、連れていきたい観光地はひとつも無い。まじでごめん。
写真が趣味の友人は「まぁ写真撮りたいだけだから、別に観光名所とかじゃなくていいんだよ」と言い「写真撮るってなったら、行きたいとこある?」とヒントをくれたので、私はようやくそこで「写真撮るなら塩屋」と解のようなものを出すことができた。まぁ北野とか旧居留地とか撮ったっていいけど、私が写真を撮るなら塩屋だ。塩屋は地形が良い。海と山と家が狭い範囲にギュッとしている。実は洋館も多いし、駅もささやかな商店街もかわいい。神戸を凝縮したら塩屋になるんじゃないか。隣の滝の茶屋駅は私がいちばん好きな駅だし、あそこも写真を撮ったら楽しいだろう。
初日、私のフィルムカメラにトラブルがあって(結局壊れてはなくてただの電池切れだったけど、その電池がどこにも売ってなくて困った)流れで行ったキタムラで「このコンデジ良いよ、こんな状態も良いのがこの値段で出てるのなかなかない、これは買いだよ」と友人が激推ししてくれたCanonのIXY 650mを買った。奇しくも前日に「まぁフィルムも良いけどさ、デジカメいっこぐらい持ってても良いんじゃないの?あなたカメラあれば撮る人でしょ?いくらまでなら出す?」と聞く友人に「まぁ5万とかちゃうん」と私が答えた値段よりも、もっと安い値段だった。ほんとは最初「10万ぐらい」と答えたが、言った先から「いや10万も出せんわ」と訂正した。ぜんぜん10万も出せない、噓噓噓。IXY 650mはSDを追加で買ってもぜんぜん5万以下で、私は「買わない理由を金額にする術」を早々に失った。なおかつ友人の言う「カメラあれば撮る人」は図星だと思った。私はカメラがあれば撮る、iPhoneよりむしろカメラのほうが撮る。言い得て妙だな。
そのままヤマダ電機でSDも買い、お昼ごはんの提供待ちの数分に友人が設定をしてくれて、午後にはもう撮れる状態になった。正直私ひとりだったらまずこのコンデジを買ってはいないし、すんごいやる気が出てこのコンデジにたどり着き、運よく買えたとしても、SDを買って設定するまでに1ヶ月はかかったと思う。SDを入れないといけないことを知るまでに3日とかかかる。そうだ私は、グリル一平の席でさっき買ったカメラの箱を開けたりできない、私ってめちゃくちゃボヤボヤしているから。こんなに爆速でコトが進んだのは何もかも友人のおかげだ。しかも「デジカメ買うから選んで」とか言ったわけではないので、成り行きって不思議だと思う。っつーかSDだってこんな速度で自分で選べないよ、ありがとうございました。
夜にはカメラをwifiでiPhoneに繋げて、インスタにアップするところまでできた。これも友人が「今日撮ったやつインスタにアップしなよ、縦位置で撮ったやつストーリーにあげな、今日できるだろアプリ入れるだけなんだから」と言ったからだ。友人はヤイヤイうるせぇし口調も怖い部活の先輩みたいだけど、こういうのに従っておいたほうが良いことだけは分かる。翌日会ったら「あの写真良かったよ屋根が3つ入ってるやつ、飛行機雲のラインと揃えたんでしょ?上手く撮れてた」とまっすぐ褒めてくれて、まじで部活の先輩みたいだった。
翌日は急遽もうひとりの友人も来てくれて、3人でスナップショット旅になった。人と撮るのも楽しいし、同じ場所にいても撮りたいと思うものが違ったり、同じものを撮ってるように見えても実は違っているのが楽しい。ひとりだと「暑いしもう帰ろうかな」と思いそうなタイミングでも、誰かが「こっちも行ってみよう」と言ってくれたりするし、そう言われると「そうしよう、せっかく来たし」と思える。塩屋にはカメラを持ったおじさんや電車を撮りに来た男の子たちも結構いて、機材さえあれば長く楽しめる趣味で素敵だなと思った。
帰宅したその晩にまた撮ったのをアップしたら、ものすごく久しぶりの友人がコメントをくれて嬉しかった。インスタのストーリーズって多すぎて見るのめんどくさいからあんまり見ないようにしてたけど、見なくていいやつをミュートすればいいと知って急に楽しくなった。これでお店とかブランドのとかを延々見ることなく、友だちのやつだけ見られる。
何よりカメラを持った途端、自分の目が写真を撮るための目に切り替わるのがおもしろかった。この感じが懐かしい。ほとんど無意識に光源を探し、撮りたい色がないか探している。撮りたいものが先にあってこそ起動するiPhoneのカメラとは、根本的に違う。
フィルムカメラも良いけど、デジカメも楽しいな。デジタルならフィルムを買うコストも現像するコストもかからないし、撮ったのをすぐ見られるのも良い、ミスったのを躊躇なく消せるし。いや当たり前のことすぎるか。古代人?保存する場所だけちょっと困るなぁと思っていたら、去年友人が誕生日にくれた外付けSSDがあるんだった、あれ2TBくらい入るはず。ありがたすぎる、全解決した。コンデジ持ち歩く生活にしようと思う。軽いのもうれしい。
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