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38度線
2021年4月6日 (火) 23:05
「自分」というものの範囲は、物理的にどこまでを指すのか、と考える。物理的に「ここまでが自分、ここからは自分以外」と分けられる線があるのでは、と思うのだ。
が、考えれば考えるほどその線は定まらず、そもそも線などないのでは、というところへ行きついてしまう。
刺されて痛いところ=「自分」の物理的な範囲と仮定する。踵や指先を刺されたら痛い。痛いと感じるのは「自分」なので、この定義でよさそうな感じがする。
でもそうすると爪や髪は「自分」ではない、ということになる。爪や髪は刺されても痛くない。何なら定期的に切っている、意図的に、そのぐらい痛くない。
でも爪や髪は「自分」ではない、とはとても言えない。だって寝ている間に爪を勝手に切られたり、髪を染められたりするのは嫌だと感じる。
では爪や髪を「自分」に含めるために、無断で手を入れられるのが嫌だと感じるところ=「自分」にしてみる。ここまでくると、私は一気に「自分」が分からなくなる。まず、服や靴が「自分」に入ってくる。手や爪や足や髪に触れられなくても、例えば今着ているワンピースの裾を無断で切られたら絶対に嫌だ。着ているワンピースは物理的に「自分」とは言えないと思うし、切られても刺されても私は痛いと感じないのに、「無断で手を入れられるのが嫌だと感じるところ」という定義であれば、合致しているような気がする。
となると、家も「自分」になってしまう。無断で家に上がられたり、床の色を塗り変えられたり、壁のクロスをはがされたりしたらめちゃくちゃ嫌だ。1年とすこし前くらいに、私は選んだ記憶が全くないのに妙にふかふかした濃紺のクロスが寝室に貼られている夢を見て、嫌すぎて泣いたこともある。
家は物理的には「自分」とは言えず、どう考えても「自分」の外側に存在しているのに、「無断で手を入れられるのが嫌だと感じるところ」という定義には合致してしまっている。
さらに家族や友人や、一緒に仕事をしている仲間たちのことを考えると、これも「無断で手を入れられるのが嫌だと感じるところ」という定義に当てはまってしまう。「自分」が個体でなくなってしまう。
例えば私と甥はどこからどう見ても完全に別の個体であり、当たり前だが脳も別で、血は多少繋がりがあるのかもしれないがもちろん別の親から生まれており、お互いの「自分」とは切り離された存在であるが、「無断で手を入れられるのが嫌だと感じるところ」という定義だとすると完璧に当てはまる。「ところ」ではないけど…
甥そのものを「自分」に含めるとなると、さらには甥の髪や爪、服や靴も「自分」に内包されていってしまう感覚に陥る。仮に、甥の黄色の小さい靴や、かわいいオーバーオールを誰かがカッターでざくざく切るシーンを想像してみる。めちゃくちゃ嫌、絶対やめてくれよ、嫌すぎて、場合によっては私は手が出るかもしれない。
甥を例にあげたが、姉や義妹、弟、両親、友人たちや、その友人のまた友人や家族、友人のペット、さらにその人たちの所有する物、家、なども全部「無断で手を入れられるのが嫌だと感じるところ」に合致する。
このあたりまでくると、私は「自分」というものが何か、「自分」と「それ以外」と分けるものがどこにあるのかさっぱり分からなくなり、それらを分けていたであろう線は、もやもやと薄れていく。なんだこの、私があなたであなたが私、みたいな状態は。お前のものは俺のもの、俺のものはお前のもの状態、とも言える。分からないが、しかし「どうでもいい」とはまた少し違う感覚が手のひらに残る。私は、「自分」は、なんだ、どこまでが「自分」だ、私は、なんだ。「自分」が分からないので「自分らしさ」など到底分かるはずがない。
誰かすごく頭の良い人たちが、このあたりのことをとっくの昔に整理し尽くしてくれているはずだ、絶対にそう、と思うものの、どこに尋ねればその解を得られるのかが分からない。窓口はどこか。
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