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2021年2月12日 (金) 22:35

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画家(植田陽貴さん)に頼んでいた絵が届いた。家を買い、寝室の壁紙を決めたあたりから、ベッドの頭の上の位置に絵が欲しい、と思っていたのです。とはいえ、自分で描くのは避けたい。壁紙、ドアノブ、床材から天井の仕上げまで、何もかもを私の好きに決めた家に、その上まだ自分の絵を飾るなんて、まじ自分過多すぎる。自分に溺れて息が出来なくなりそう。この家には人の作品だけを飾ることにする。

抽象っぽいのも良いし静物画も好き、でも風景画が良いかも、好きな画家はマティスとクレーなんだけど、せっかく買った家に複製画を掛けるのもつまらん、などとあれこれ考え、植田陽貴さんにお願いして描いてもらうことにした。長年の知り合いではあるものの、友だちと言うにはおこがましく、ファンだと名乗る資格もないと感じたので、絵を描いてほしいとお願いすることをどう受け止めてもらえるのか分からなかった。断られるのは構わないけど、むしろ「断りづらい」と感じさせてしまったらそれが一番嫌、などとまごまごし、せめて直接会ってお願いしよう、と個展に行った。「寝室に絵を飾りたいので描いてもらえませんか」と言うのはなかなか緊張したが、彼女は二つ返事でOKしてくれた。

去年の夏ごろ、正式に依頼のメールを送った。希望する大体のサイズと、3連の作品にしてほしいこと、はるきちゃんの過去の作品で好きなもの(光、とサンクチュアリ、”サンクチュアリ”は3つのキャンバスを使った3連の、雪山の絵で、”光”は曇天の中に立っている木とそこに吹く風とそこに差す光の絵)、予算、を伝えた。絵をオーダーするときに予算を伝えるのが正しいのかどうかは分からない。超ご無礼かも、と思いつつ、でも仕事でイラストレーターに依頼するときは予算伝えるしなぁ…どうなんでしょうね。人による、ってことかな。

秋ごろにラフのやり取りが一回あって、年明けに「突然できた」と連絡がきた。確かに「突然できるかもしれない、自分でも分からない」と彼女は言っていたが、本当に突然だったし、メールに添付された写真のサムネイルは、ラフとはかなり違っていて、ドキドキしながら開いた。
絵は寂しく、冷たい色に曇っていて、それでいて力強く気高く、凛としてそこにあった。曇っているのに、光も感じる。木は手前と奥に立っている。風が吹く、広い場所に居る。欲しかった絵だ、と思った。私はこんなふうに、私を画面に入れさせないことで、私自身をくっきりさせる絵が欲しかったの。「孤独だ」と思うのと同じぐらいの分量と熱量で「どうやってもひとりになれない」と思っている、そのことを理解し、決して否定せず、思い出させてくれる絵。雨の日にする二度寝や、台風の夜の読書と同じように、私は植田陽貴が描く曇天が好きだ。

「真ん中を正方形にしてしまいました」というメールの文面通り、3連になった真ん中の作品は正方形になっていた。しかもそこに描かれているのは空(くう)だ。主となるモチーフはなく、ただはっきりと曇った空が、真ん中に据えられていた。わざわざ真ん中だけサイズ大きくしたのに、そこに空を描くのなんなの…!この場合の「なんなの」は賛辞です。

元々最高の我が家がさらに最高を更新してしまったので、人生がたのしい。朝起きて、下から眺めるのもよかったな。はるきちゃん本当にどうもありがとう。大事にします。

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