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反理論的考察

2019年11月25日 (月) 21:04

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植田陽貴さんの油絵教室に行ってきた。とっても楽しかった。
油絵具は初めてさわったけど、マティスもクレーもこれで描いてたんだ、と思うだけで胸がきゅんとした。いや細部は大分違うでしょうよ、分かってるわ、ええねんそんなこと今は。
でも「道具」ってこっちのポテンシャルとは関係なしに、ただ手にとって試しに使ってみるだけで、いつもと違うところに視点を置くことができる。
うえはる先生はワークショップのあいだ何度か「絵具に描かされてるって感じる時がある」と言っていて、最高か…と思った。描くのが好きなんだな、根本的に、根源的に、と思った。

あの油絵特有のにおいにすっかり慣れ、むしろちょっと好きになってきたころにワークショップは終了し、先生が書いてくれたレジュメを読みながら地下鉄に乗って帰った。小さい字でぎっしり書いてあるそれは、好きなものの好きなところを好きだ!と言っている愛のある文章で、また来週教室があれば良いのに、と思った。通いたい。

植田陽貴さんはあんまりちゃんとお会いしたり、たっぷりお話したりしたことはないものの、もう10年近くTwitterに居る人(が、たくさんおるよねTwitterという場所は)で、とても素敵な絵を描く人だ。
「とても素敵な絵」って何だよ、個展に行くのも初めての私がこんな話をすべきではないのは分かっているので憚られるけど、そんなことをゴチャゴチャ言ってても始まらんからな、語彙を尽くします。いんだよ私の感想を書くんだから、私が感じたやつを書くだけだ、逃げんな。

うえはるさんの絵は、その”変化”がおもしろい。10年ほど見てきてずっとおもしろかった、そして今もおもしろいの最中にいる。描くモチーフを筆頭に、色の置き方・選び方、がぐんぐん、にょきにょき変わっていっている。

10年くらい前の絵だと、女の子とか動物とかが鮮やかな色で描かれていて、質感はやわらかく天気がいい、みんな親密な目をこちらに向けてくれている。あのキャンバスの中に入れるなら、私は間違いなく昼寝をする。

今回の個展に出されている最近の作品たちはもっと、誤解を恐れずに言うと、冷たい。全く受け入れてもらえそうにない。昼寝なんか絶対できない、凍死するか、もしくは何かに食われるだろう。
美しいけどどこか拒んでいる雪山、親しいからではなくたき火があるから集まってきた生き物、遠巻きにこちらを見る目。向こうじゃなくて、こっちが、私が余所者なんだよ、お邪魔しています、はじめまして。

でも森とか山とか、自然てのはそういうものだよな、と思う。こっちがこっちの都合で勝手に切ったり植えたりして、住む場所を奪ってきたくせに、食べるものの無い状況に追い込んできたくせに、また都合よく戻ってきて「空気がきれい」て。「自然の美しさ」とか言って。そらそうだよ、そんな親密にしてもらう権利、あるはずない、私が木を見て何を思おうが、何を感じようが、向こうは別に受け入れてなんかない。自然はやさしく包みこんでくれたりしない。向こうはただずっとそこにあり、変化や進化の最中にあるだけで、余所者なのは私の方だ。

でもうえはるさんの絵を見ていると、そのことがさびしくも悲しくも怖くも厳しくもなく、むしろ清々しく、居心地のいいことだと思える。拒まれることによってくっきりする自分の輪郭を、静かになぞることができる。自分が、ただ息を吸って、いのちを食べて、排せつするだけの生き物であるという事実が、正も誤もなく立ち上がってくるような感じがする。息をひそめて小声で話す必要もなく、同調をアピールするだけの大きな笑い声をあげる必要もなく、ただここにいて、自分とそれ以外とを、その境目を見ているだけでいいのだ、と思える。

結構語彙を尽くしたのにあんまり芯を食った手応えが無いな、なんでだ。でもインターネットに放流する文章を読み返したり推敲してはだめ、なにも公開できなくなる、絵はもう観た方が早いうえに雄弁、個展@神戸は12月1日までなので、ぜひ行ってください。会場のギャラリー「BIOME https://www.biome-kobe.com」にはエタノールを使ったたき火?暖炉?があって、まじの火を見ることができます。火があるとあったかいし、あと観るものとして超おもしろい。この火越しに観る火の絵がまた最高。私が1回目に行ったときは夜19時前で、異様に風が強く、山小屋に避難したような気持ちになりました。ちょっと地下室っぽい雰囲気もあるし、良い会場…椅子も照明もかっこいいのが置いてあるよ。ぜひに!

植田陽貴 個展
「渡り鳥はかく語りき 火について」

2019年11月15日(金)- 12月1日(日)
日月火水 13:00-19:00
木金土 12:00-19:00
会期中無休(最終日15:00まで)

BIOMEhttps://www.biome-kobe.com

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