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ひどい食事

2023年7月5日 (水) 20:51

映画のはなし

映画『マルセル 靴をはいた小さな貝』がすごく良かった。今のところ、今年いちばん好きな映画だと思う。
主人公はタイトルどおり、靴をはいた小さな貝のマルセルで、ジャンルとしてはドキュメンタリーなのか、でもストップモーションアニメでもあるし、いや待てストップモーションアニメはジャンルではないのか?手法か?でもそれならドキュメンタリーだって手法じゃないの?うーん分からん、どうでもいい、とにかく『マルセル 靴をはいた小さな貝』がとっても良かった。貝がどうやって靴をはくのか不思議に思うかもしれないけど、まぁ見ればわかる。本当にはいている。

あまりにも愛おしい映画だったので、この感情を言語化できないことが悔しく、でも「何でも言語化できると思うなよ」と思って生きているので、大変嬉しくもある。言語化できない感情が湧いてくることが、私は嬉しいし楽しい。絶対に「かわいい」だけは言うまい、と思うが、どう考えてもマルセルは「かわいい」ので歯がゆい。

私は「かわいい」に他の言葉を詰めまくっている自覚がある。私が「かわいい」としか言っていないときは端折っているのだ。なんだったら端折っている言葉のほうが多い。
例えば「めっちゃくちゃ好きすぎてこんなん手をつなぐくらいではどうにもならんので今すぐ家に連れて帰って何か食べさせて私のベッドで寝かせたいしその寝顔だけみて5時間ぼーっとしたい」と言いたいところを「かわいい」の一言で済ませている。全部言おうと思えば言えるけど、ややこしかったり、怖がらせたくなかったり、誤解を生みそうだったり、なんか怒られそうだったり、通報されそうだったり、ふつうにめんどくさかったりするとき、とにかく「かわいい」でカタをつけているのだ。カタがついているかどうかはあやしい。

週末観た、映画『アシスタント』も良かった。映画に関する会社(配給会社なんかな、とにかく映画作る会社)でアシスタントとして働く女性が、出社して退勤するまでの1日だけの、ごくシンプルな話ではあるけど、「この“感じ”って映像化できるんだな……」と感動した。派手な展開はなく、脚本もどちらかと言うと地味で、オフィス、給湯室、ボスの部屋くらいしか出てこないのに、観終わると12時間みっちり働いた日みたいに疲れた。主人公は話していないときのほうが雄弁で、私はその機微を絶対に見落としたくなくて、ずっと緊張していた。

帰り道、主人公の名前が全く思い出せず、私が思い出せないのか、いや、そもそも劇中で誰も名前を呼んでないんじゃないの、と思い至り、ぞっとした。名前が無いということは「誰でもない」のではなくて「彼女が誰でもある」という意味なのだ。彼女は私だし、私は彼女なのだろう。ウェブサイトには「英語で匿名の女性を指す “Jane Doe” に由来するジェーンというキャラクター」と記載があった。匿名の女性。

そしてこの映画のタイトルが『アシスタント』なのもゾクゾクする。こわい。主人公の仕事がスケジュール調整をしたり、事務仕事やお茶くみなんかしたりする業務内容なので、単にその名称でもあるけど、でもこの映画が主題にしている会社や社会の構造の、いつからなのか分からないけどちょっとずつ狂ってきていて、みんなも気づいているのに、でももう崩すのもやっかいで、ちょっと小突いたくらいではぜんぜん壊れそうにない、この構造の、手伝いをしている人=アシスタント、とも取れる。私も「アシスタント」じゃないか。嫌だ。嫌だけど、でも私はどうすればいいのか知ってる。嫌だから、今やるべきことは、火炎瓶を投げることでも、街頭で人を刺すことでもない、露を払うこと。

家に帰ってネットフリックスで監督(キティ・グリーン)の作品『ジョンベネ殺害事件の謎』も観た。これもすごかった。観たことないジャンルだったと思う。他に似た映画を知らない。

今年ほんとに「他に似た映画を知らん」てなる映画をたくさん観ていると思う。単に観てる映画の数が多い=母数が多いから、とも取れるけど、どうなんだろうか。調べようがないけど。もしほんとに母数が多いことだけが原因なんだったら、私は毎年映画を200本観ないといけなくなる。……しんどい。

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