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2021年8月2日 (月) 22:53
オタクの話が一番おもしろい。「オタク」という呼称がフィットしているかどうかは分からんし、そこもう議論しなくていいと思う、というか私は別にしたくないのでこの場合の呼称は「愛好家」でも「すげぇ好きですげぇ詳しい人」でも「沼の人」でもなんでもいいけど、とにかくオタクの話が一番おもしろい。
「ブックセラーズ」というドキュメンタリー映画を観た。老舗書店の店員、業界有名人のブックディーラー、希少本ハンター、などなど、本の売買をする人たちを総称して”ブックセラー”と呼ぶらしい。大枠としては「本の映画」なので、劇中にはマンモスの毛が標本として綴じてある本、レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿、実物大の図版が載っている魚の化石の本、などの超めずらしい本がたくさん登場する。
また、希少本のネット販売に怯える人、革製本を専門的に取り扱う人、Kindleを嫌悪する人、自分の死後蔵書がどうなるか懸念する人、あまりの蔵書数に床がもつのか不安がる人、古書業の未来について「上の世代は悲観的になってるけど私はわりと楽観的、だってアイディアが超いっぱいあるから!」と言う人、「40万冊あるけど、どの本がどのように、どこから来たのか全部話してやれる」と言う人、「デヴィッド・ボウイに貸した本返してもらってない、貸すときに買ってよって言ったのに!」と言う人などなどが、ああやこうやと熱っぽく話してくれる。もちろんそれぞれの意見・観点・立場があるが、みな一様に「どこか浮かされた顔」をしている。構っていられないのだろうな、と思う。自分が聞き手にどう見えるか、話が伝わるか、好意的に捉えてもらえるかどうか、そんなこともう構っていられないのだろう、だっていま本の話を、好きなものの話をしているから!いいな、いいね。
私は、望むと望まざるとに関わらず、好きや仕事を越えた位置に行ってしまった人たちの表情、声のトーン、話し方、積まれる語彙量が好きだ。オタクの話が一番おもしろい。
ほぼ同時期、宝塚歌劇「はいからさんが通る(初演の千秋楽)」をAmazonで観て、友人の固定ちゃんと話した。
固定はアツすぎるヅカオタなのだが、おそろしいほどの知識量と圧倒的な熱量で3時間たっぷり、惜しみなく話してくれて、めちゃくちゃうれしかった。日付が変わって眠くなったので終了したが、彼女はたぶんまだ入り口のあたりしか話していないと思う。沼は広く、深い。
ほぼ脈絡なく繰り出される昨今の宝塚事情、原作ものの取り扱いの難しさ、複雑なファン心理、などなど、を聞きながら(メモも取りながら)(なぜメモを取るのかは謎)私は「ブックセラーズ」に登場した人たちのことを思い出していた。違う国の人間で、違う対象を取り扱っているし、違う話をしているのに、どうしてこうも似てくるんだろう。好きで、大事にしていて、たくさん時間をかけてきて、他人にそれを分かってもらいたい・知ってもらいたい気持ちと他人なんか知るかクソどうでもいいと思う気持ちの両方を同じ量だけ握りしめて、でも話そうと思えばいつまででも話せるのでしょ。いいな。いいね。オタクの話が一番おもしろい。
何よりやばいな、と思ったのはこれを私が無料で聞いている、という点である。私は人の得た知識とそれにかけた熱量・時間、その人自身をフィルターにして出てきた話に、すごく価値があると感じる。これ無料で聞いてていいんだろうか、お金ではないにしても、何の対価も払わずに、許されるのだろうか。わからんけど何らかの搾取なんじゃないの…?友だちだからいいのか…?となると友だちってすごいな…なんというか、システムとしてすごい。そんな、パスポートみたいなことで、いいんだろうか。
とはいえ私自身は「どっかおいしいお店ない?」とか「最近よかった映画なに?」とか聞かれるのすごく信頼されてる感じがしてうれしいからな…頻度の問題もあるのかもしれん、あと「情報屋みたいな扱い」になってくるとそれは嫌かもしれん。
そういえば昔、いまさんに「なんか映画おすすめして」って言われて3作ほど送ったら1ヶ月後ぐらいに「全部観た、全部めちゃよかった、次は?」って連絡が来て、あれうれしかったな。私はもちろんどの作品にも一切かかわっていないし、いまさんが気に入るかどうかはどっちでもいいのだが、おすすめしたものをちゃんと見てくれることと気に入ってくれることには不思議な喜びがあるね。なんだろな。
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