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家臣には何も告げないで
2022年2月1日 (火) 21:47
おにぎりが苦手だ。いや、食べるのは得意。おにぎりを作るのが、苦手だ。
おにぎりが苦手な理由はだいたい百個くらいあって、いや、ふたつあって、ひとつは私が不器用だから、もうひとつは思い切りがわるいから、だと思っている。
職業や趣味がどちらかというと手先を動かす類のものなので人からはそう思われていないようだが、私は不器用だ。小学1年生のとき「まともにハサミが使えない」という理由で、母が学校に呼び出された。私自身にあまり危機感はなかったものの「なんかヤバいっぽい」という気配・プレッシャーだけを察知し、母の言った「お習字に行ってみる?」に素直に頷いた。先生に薦められたのか、母が考えたのかは知らないが、お習字教室に通えば、多少の器用さは身につくのでは、ということだったのだろうか。
経緯は分からんが、お習字はなかなか楽しかったし、固形墨をする音やにおいも好きだったし、母が習字道具を入れるために買ってくれた四角い黄色のリュックサックも気に入っていた。肩紐が赤いベルトで、手がなくて足だけあるニコちゃんマークのキャラクターが付いていたのをよく覚えている、かわいかった。
お習字教室に通ったことで、字は読める程度に書けるようになったし、体裁を整える程度の器用さは身に着いたのだと思う。ハサミでも、紙をまっすぐ切れるようになった。が、それでも器用とは言い難く、私はいつまでもシルバニアファミリーの家具などについている窓や柵などを模した付属のシールを正しい位置に貼り付けることが出来なかったし、ファミコンのコントローラのボタンを見ずに押すことが出来なかった。前者はいつも姉に貼ってもらうことで回避し、後者は「ストツーなら適当にいっぱい押せばなんとかなる」というカズくんのアドバイスによってどうにか凌いだ。
おにぎりを作るのに器用さが必要かどうか、には確証がないが、少なくとも手しか使えない料理なのだから関係はあるだろう。私が銅鍋を手に入れようが、圧力鍋を使いこなそうが、菜切り包丁をピカピカに砥ごうが、どれも全然関係ない、おにぎりを作るときに使えるのは手だけなのだ。
母も姉も、父もおにぎりが上手にできる。弟が自分の息子のために小さいおにぎりを作っているのを見た時も、こっそり驚いた。そうだよ、弟も、私より遥かに手先が器用だ。この家の人たちは基本的に全員手先が器用だ。私以外全員。
私の作るおにぎりの一番の問題点は「形状を保てず崩壊する」というところだと思う。手でつかんで一口食べると、そのままどんどんバラバラになるのだ。あんなに苦心して握ったのに、お茶碗とサランラップを使って一生懸命に成型したのに、おにぎりがおにぎりの形をしている時間が短すぎる。
おそらく、私は「どのくらいの力で握ればいいのか」がいまだに分かっていないんだと思う。もともと思い切りの悪いところがあるから、ひと思いにギュッ!が出来ない。フワフワした所在ない手つきでボソボソと遠慮がちに握り、もうこんなもんでええんかな、わからん、合ってんのか、わからん、と思っているから、その気持ちを具現化したような、ヤワなおにぎりが出来上がる。一口目で崩壊したおにぎりを仕方なくお箸で食べながら、ぼーっとする。おいしい、味はおいしいけど、でもこれはもう、おにぎりじゃないよ。
いつか確信に満ちた手つきで、確信を具現化したような、正三角形のかっこいいおにぎりが作れるようになりたい、と思うが、こういうタイプの「いつか」は永遠に来ないと知っている。そもそも年に1回作るかどうか、ってぐらい頻度が低いのに、そんなんで上達するはずがない。確固たる意志を強く持ち、挑み続けた者だけが、おにぎりを握れるようになるのだよ。
つーか、おにぎりって確固たる意志を強く持ち、挑み続けるような食べ物なのか?
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