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これがそうなんだったら私のあれもそうだわ

2021年4月23日 (金) 23:40

映画のはなし

「花束みたいな恋をした」を映画館で観てきた。まぁ機会があれば観るか〜ぐらいのテンションで数ヶ月過ごし、そういえば「アンモナイトの目覚め」もう始まったかな?「SLEEP」も観たかったけどもしかしたらもう終わるかも、とシネリーブルのホームページを見ていたら、まだ「花束みたいな恋をした」が上映されている。私は映画の公開期間がどのように決まっているのかは知らないが、大体終映日未定、つって封切られ、人気投票のような形で終わっていくような印象がある。「花束みたいな恋をした」が始まったのは1月の終わりか2月ごろだったと記憶している。ロングラン上映なんですね。私が仕事終わりに映画館へ行って間に合う映画というのはそう多くない。あと20分遅く始めてくれたら間に合うのにな、という場合も多い。水曜の仕事終わりで観られるな、と思い、「花束みたいな恋をした」を観ることにした。

前評判はほんのり触れる程度、タイムラインに流れてくるツイートを流し読みする程度、ではあったが、どうやらサブカル人間たちの恋愛ものっぽい。なるほど。じゃあ「モテキ」みたいな感じでしょうかね、と思っていた。観てみたら、まぁ「モテキ」みたいではあったし、「(500)日のサマー」みたいでもあった、「ララランド」も同じ棚に並んでいるかもしれない。時代や国境を越えて、愚かな私たちサブカル人間どもは相手と場所を変え、何度も同じことを繰り返しているのだ。”業”のよう。

私の、観終わったあとの感想としては「まぁそう泣きなさんなよお若いの」、というものだった。私はもうラブストーリーを俯瞰で観ることしかできず、我がことのように感情移入して泣いたりすることはできないのか、とも思ったが、そういうことでもないな、だって、この子たちは若い。21歳で出会って、5年付き合って、じゃあいま26歳でしょう。若い若い。まだ他にもいくつか(もしくはたくさん)恋をするし、魂の片割れのように感じる人と、この先も出会うだろう。でも私だって32歳だから、まぁ40歳の人とかからしたら「まだ32でしょ、若い若い」ってなもんで、まぁ年齢ってその程度のもんですけど。

劇中、私には理解不能なシーンが多すぎた。まず天竺鼠の単独ライブを前売りで買ってあったのに、一回デートしただけの男に偶然会ったので焼肉を食べに行くことにする、とかまるで意味がわからない。同じく前売りで買ってあったのに、しかもそのチケットを財布に入れてたのに、当日忘れてるなんてことある?iPhone持ってるやん、スケジュールアプリとか使ってないのか、つーかさぁ、そんなに楽しみにしてなかった、ってことはない…?
まったく初対面の人に「神がいます。犬が好きな人ですよ」と言うか?誰を神とするかはもちろん人それぞれ自由だが、お前は絶対に「ショーシャンクの空に」も「実写版 魔女の宅急便」も観てないだろ。一曲でもまともにワンオクを聴いたことあるのか。
読んでいる文庫本を見せ合う選民的なシーンも、ほとんどホラーのようだ。私は今読んでいる本など基本的に人に見せたくない。「好きな本を見せるなんて、肛門を見せるようなもの」と言ったのは誰だっけ、又吉さんか若林さんか、あぁ光浦さんかもしれん、言い得て妙だ。…でもまぁ少なからず好意を抱いている人に「本読むの?今何読んでる?」と聞かれたら、私も見せるかも。いや肛門は見せないが。
イラストを描くことを仕事にできたらいいな、と言う麦くんは自分で描いた絵を「ワンカット1,000円」で売り始める。最終的に「3カット1,000円」になってつらい&キツイ、という流れだったが、待て、そもそも「ワンカット1,000円」がおかしい。カメラマンをやっている仲良しの先輩がいるようなのに、彼女の絹ちゃんに水商売を紹介してやるよ、とゴミみたいなことを言うだけで「ワンカット1,000円」にはノーツッコミなのがどうも気にかかる。あんたそれ1枚1時間で描けたとしても時給1,000円にしかならないよ、分かってるのか?これで食うんでしょ?よく考えな、月にいくらあれば食えるのか、父ちゃんの5万はカウントすんなよ、と言いたくなる。お、これが老婆心てやつなのかな。でもこのやりがい搾取のワンパッケージ(経験が無いので安売り→ナメられてるから単価減→嫌だと言えなくてグダグダ→これじゃだめだと思ってお伺いを立ててみる→「じゃあ”いらすとや”使うからもういいっす~」つって切られる)に、全く身に覚えがないとは言い切れない。この道はいつか来た道、か。
カラオケに見えないカラオケ屋で開かれるITおじさんたちの飲み会や、コリドー街での名刺集めにもびっくりした。あんな場が現実にあるのか、まぁ私は見たことがないし行ってる人をひとりも知らないってだけで、実際にあるのかもしれない。見たことないものを無いものとは言い切れん。でもサブカル界隈にいて、そこに呼ばれる?の?いやサブカル界隈て超死語っぽいな、”界隈”がもう死語っぽい、”サブカル”ももう息してない、っつーかそもそも私は職場の人に「ひとり行動」を咎められたことなど一度もないよ。みんなが参加する歓迎会や忘年会ならまだしも、コリドー街の名刺集めなんか「興味ないから行かない」と言う選択肢・権利はないのだろうか。「奢るよ~何飲む?なにーラ?」ってめちゃくちゃスベってるでしょ、何あの虚と無の時間。あれ断ったら受付仲間たちにハブられて仕事しにくくなる、とかそういうことなのかな。数合わせで呼ばれた、と自覚しているのに、なぜ行く?「興味ないから行かない」と言えない理由は何だよ。「私はITおじさんにタダ酒飲ませてもらってはしゃいでるこの子たちとはちがう」と思いたいからじゃなくて?私がひねくれてるのか。
あれ見た、あの時あそこに居た、あれが好き、と固有名詞を乱発するわりに、どこがどんな風に好きか、どんなところに思い入れがあるか、どんな影響を受けたか、といった中身の部分には一切触れず「すっごい良かった~」「超泣いた~」ぐらいしか出てこないのも気になったが、これは「それを知らない人たちが置いてけぼりにならないようにしたい」という脚本上の優しい意図なのかもしれない。私の性格の悪さを発揮して受け取ると「お前らはこうやって共通言語の固有名詞を乱発して”すっごい良かったね~”と言っていれば分かり合えたと錯覚できる程度の人間だろうが」と言われているように感じることもできる。どっちなんですか、どっちでもないんですか。

この人たちは世間的には若干マイナーなサブカルチャーを嗜好する人間たちがやりがちなマウンティングをしていない、という評をWeb記事で読んだが、表面化してない、口に出していない、というだけでバリバリにマウンティングしてるでしょ、と思ってしまった。でなければ「実写版 魔女の宅急便」が良かった、と言っている人たちをあんな目で見るだろうか。「好きな言葉は”バールのようなもの”です」と言うか?初めて会う彼氏の友だちに向かって「自意識とともにハットのツバは広くなりますよね」とすました顔で言うか?お色直ししたマウンティングでしょ、と思うけど、そう見えた私に問題があるのかもしれない。私は幼少期から自分のひねくれについて認識し、思春期に逆ひねりを追加し、今はもう自分のひねくれを正確に捉えられないぐらいひねくれている。何言ってっかわかりますか。
つーか”マウンティング”以外の名称が何かあるんじゃないのか。「私の方がよく知っています、詳しいです、あなたより上です」は確かにやってないけど「私は分かってます、他の人とは違います、あなたも分かってる人でしょ?」をやってるやん、これ何か、名前ついてないのか。マウンティングもしゃらくせぇけど、後者も十分、同程度にしゃらくせぇわ。私は関西生まれ関西育ちなので「しゃらくせぇ」という言葉を使う文化は本来持ち合わせていませんすみません。

「じゃあ話をしよう」とお互いに歩み寄るのが別れ話をするジョナサンでは遅い。同棲を始める前に、いや、3日間大学をサボってセックスした後に、就職活動を始める前に、就職が決まった後に、毎日5時に終わらない仕事だと気づいた時に、もっと「話をしよう」のタイミングがあったでしょう。遅いよ。でもこの渦中にいたら「私たちは大丈夫」と思っちゃうか…まぁそれも分かるけど…
「ふたりの現状維持」を目標とするのはいいんだが、それ結構ってか一番難しいし、そもそもの維持したい「現状」を全く整理もせず、共有もしてないまま、こんな狭い部屋で人間がふたり暮らすなんて無理な話だ。「今のプロポーズなの?思ってたのと違った」と言われた人が、ドアを閉めてひとり泣く個室もないような部屋で、無理があるよ。でも多摩川が見える2面バルコニーの家は良いね、キッチンの赤いタイルもかわいい。

絹ちゃんが言う「わたしはやりたくないことしたくない、ちゃんと楽しく生きたいよ」は、全くそのとおりだと思うし、学生気分だなんて思わないけど、それを言う前に麦くんはどう思うか、どう思っているのか、どう心境が変わってきたのかを聞いてやれよ、と思った。好きな人なんでしょ?片鱗は確かにあったのに、それを同じ部屋でずっと見てきたのに、絹ちゃんはなんか引いてるだけでぜんぜん手を差し伸べる様子がなくて悲しかった。え、好きな人なんでしょ?好きな人が、一緒に宝石の国を読んで一緒に泣いてた自分の好きな人が、ゴールデンカムイが読めない、パズドラしかできない、って言うてるの、普通に心配じゃないのか…
夜遅く帰ってきた麦くんがコンビニで買ってきたうどんみたいなのを食べているシーンもつらかった。私は「女が食事を用意すべき」とは一切思っていないし、これまでも思ったことはないが、一緒に暮らしている人が、好きな人が、「この人けっこう仕事きつそうやな、毎日5時に帰れる会社って言うてたのに嘘っぽいな」と思ったら、毎日じゃなくていいし、それを当たり前にしなくていいけど、晩御飯くらい用意してあげられないものだろうか。私は”手作りの料理史上主義者”では全くないが、夜遅くくたびれて帰ってきて「あー今日食べるもんなんもないや、コンビニでなんか買お、なんでもいいやあっためたらすぐ食べられるやつ」と思う日のさみしさや貧しさ、心もとなさはよく知っている。週に一度でも「もう帰ってくる?今日ごはんあるよ」とメールが来れば、それだけで満たされる穴は存在する。彼氏仕事忙しそうやから家事は面倒見てやったら?という意味ではない、ただもう少し寄り添い、気遣いを見せることはできませんか、と思う。これは麦くんと絹ちゃんの立場が逆だとしても、私は同じことを感じると思う。
麦くんは深夜に焼きおにぎりを作ってくれてたし、圧迫面接で傷ついた絹ちゃんにおそうめんを茹でてくれたりしてたでしょう。絹ちゃんが麦くんに何かしてあげるシーンが少なすぎないか?わざとなの?お茶入れる以外になんかあったっけ。あ、でも洗濯物たたんでるシーンはあったね。
絹ちゃんがやりたくないことしたくないのは分かったよ、でも2人で暮らしている以上、自分がいま何を考えていて今後は2人のことをどうしていきたいのか、ちゃんと対話をしなさいよ、オダギリジョーにフラフラしてないで、麦くんも立派に会社員をやれている俺、愛する人を養える俺、みたいなのに酔ってないで、と思った。突然現れたオダギリジョーにフラフラする気持ちは超わかるけど、でもオダギリジョーを相手にフラフラするのは、結構…胆力が要りそうやね。
とは言え「人生って責任だよ」とも思えない。心の底から本気で言ってんだったらいいけど、前に聞いたことあるキャッチコピーに自分を当てはめてみたらわりとしっくりきたんでそれで行きます、ぐらいのことなんだったら「人生って責任だよ」は極端すぎると思うよ。
ふたりとも、そんな極端な方へ両振りしなくていいんじゃないですか、真ん中を探しなよ、あるよ、ちょうど良い線か点か円みたいなのが、それを探すのが人生だと思うよ。それを一緒に見つけて、また時が経って違ってきたな、って感じたら、また探すんだよ、それが2人で暮らすってことだと思うよ。ま、私も出来なかったけどな!わはは!

そうだよ、私も出来なかった、だから私は、麦くんにも絹ちゃんにも石を投げることができない。「本当に罪を犯したことのない者だけが石を投げなさい」とイエス・キリストは言ったのだそうだ、さすが神、マジおっしゃるとおりですね。
私も胸に手をあてて考えてみよう。ジャケがかっこいいと思ってLPを買ったソニックユースの「Goo」に何回針を載せた?もう1年に両手で数えられる程度しか再生しない300枚強のCDをいまだに処分できないのはなんでだ?深夜のファミレスでカードバトルみたいにこれまで触れてきた作家やバンドや劇団を羅列した経験はないか?そのときお前も「あれすごい良かった~超すき~」しか言ってないだろうが、アホヅラで。もっとあるけどカッコ悪くてここには書けない、ごめんなさい。
私は石を投げられない。あなたたちが身を守る城壁のようにしている本棚を、指を差して笑ったりできないよ。こうありたい、これが好きな自分になりたい、こんな自分に憧れる、という気持ちはダサくて馬鹿馬鹿しくも思えるが、それこそが人間のかわいらしいところでもあるでしょう。これは人に見せる用の本棚じゃないの?などと思う私が歪んでいるのだ。

麦くんの恋愛観・結婚観に、私は概ね異論はないけれど、突き詰めていくと「このふたりの関係性を”恋愛”にする必要はどこにあったのか、そもそも初めからこれは”恋愛感情”だったのか、え、待って”恋愛”ってなんのことでしたっけ」という洞窟へたどり着いてしまった。私は自分の”恋愛”もままならないのに、架空の人物ふたりの”恋愛”なんてまじで手に負えないので、この洞窟は大きめの岩で塞いでおく。私は”恋愛”って人間の共通言語だと思っていたんですけど、最近「どうやら違うっぽいな」と気づいてしまって、この話はまた今度コメダ珈琲かどっかでしましょう、あ、サンキタ通りにコメダ珈琲出来てるの知ってた?

と、上記のもろもろすべてにおいて「いやぁ~…いやぁ~しか言えん、でも若いもんな、まだこのとき24とか、やもんな…じゃあまあ無理もないか…でもまぁ、いやぁ~…」みたいな切れ味ゼロの感情を持ったまま、己の胸に手を当て、静かに映画館を出た。駅前のベンチにはウーバーイーツの配達依頼を待っている男の子が大の字になって寝転がっており、春らしくていいな、と思った。こんなに「思うこと」がたくさんある映画は、良い映画だと思った。

特に締めとして書きたいことはないので終わりにしますけど、ストリートビューに自分が載るのってそんなうれしいか?そんな、奇跡!!!って感じ?まじ全然分からん。

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