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2023年10月30日 (月) 19:56
石井裕也監督作品が2本同時に劇場公開されている。ありがたく観る。
土曜日は『月』を松竹で観た。松竹はだいぶ前にkino cinemaという名前に変わっているが、場所も外観も内観もシアター数も何ひとつ変わっていないので無視して松竹と呼び続けている。名前が変わることに抵抗してやろう、という気持ちは別にないのだけど、その名前で呼ぶかどうかは私が決めるよ、とは思っている。だって、渋谷公会堂のことCCレモンホールって呼んだこと一度もないでしょう。と思ったら今はCCレモンホールですらなかった、今はLINE CUBE SHIBUYAというお名前だそうです。ぜったい誰も呼んでへんやろ(決めつけ)。
話逸れた。
『月』は小説が原作で、障害者殺傷事件を題材にした作品だ。原作は読んでいないし予告編も観ていないが、3行くらいのあらすじを読んだだけで胃が痛い。気が重い。気が重すぎて、パジャマから着替えられない。このままだと行かなくなる可能性があるな、と思い、スマホでチケットを買った。これで行くしかなくなるぞ。自分で観ると決めた映画で胃を痛めて、いったい何をやっているんだ。
2時間半、ずっと苦しかった。現実だったらそれこそ見て見ぬふりをして、その場から足早に離れていたかもしれない。「こういうことがあってさ」とすら、人に話せないかもしれない。
「○○という映画でした」とまとめることが出来ない。それは「人間とはこういうものです」と言うことと同義かもしれないからだ。私にはそんなこと出来ない。私だけじゃない、誰にもそんなこと出来ないよ。さとくん、君にも出来ないんだよ。
ちゃんと電気をつけて、窓を開けたかった。ずっと回っている扇風機がどういう演出意図かは分からないけど「何かを動かしているように見えて、何も変わっていない」という印象を受けた。扇風機じゃ空気は入れ変わらない。
原作も読んだほうが良いだろうな、でも読みたくない。気が重い。映画も観たくはなかったよ。でも、観てよかった。
日曜日は『愛にイナズマ』をシネリーブルで観た。シネリーブルは私が一番行く回数が多い映画館だ。スクリーン数は4つだが、作品数が多く、好みの映画がかかっていることが多い。地下にあってこじんまりしているところも好みだし、ロビーのあたりが赤い、ちょっと毛足が長めのカーペットになっているところも好みだ。照明も明るすぎなくて良い。12月にデジタルリマスター版が上映になるので『アメリ』のチラシが置いてあった。BSで放送されていたのをビデオテープに録画したやつを繰り返し観ていたのが20数年前のことだから、実は映画館で観たことがない。すごく楽しみ。
話逸れた。
『愛にイナズマ』は石井裕也が脚本・監督、主演が松岡茉優、めちゃくちゃ期待していた。『川の底からこんにちは』で石井裕也が好きになって『君と歩こう』が最高で、でも近年は「もう石井裕也の何を、どこを、石井裕也だと思って好いてきたのか分からない」と思ったりしながら生きてきたけど、久しぶりの、本当に久しぶりの「これこれ!これだよ!私が欲しかった石井裕也はこれ~!!!」状態になった。嬉しい。私が泣いたのは花ちゃんのお母さんが死んだからでも佐藤浩市が死んだからでもなく、石井裕也が好きだったから。
佐藤浩市、若葉竜也、池松壮亮が全員赤い服で画角におさまっているカットが気に入りすぎて、額に入れて飾りたいくらいだった。声しか出ない鶴見辰吾さんまで、役者陣が全員素晴らしかった。難しかっただろうなと思うのは窪田正孝で、めちゃくちゃバランス感覚が要る人物像だったように思う。だって、正夫くんがもし「なんか気持ち悪い人」になってしまったら、佐藤浩市に「ちょっと立ってもらえますか」と言ってハグするあのシーンは美しくなくなってしまう。前半パートで「まじでキツい、けどこういう人おる」ムーブを連発して後半に向けての鬱憤をチャージし続けてくれる三浦貴大、MEGUMIコンビもすごかった。三浦貴大さんのこと、本当に嫌いになりそうです。
たくさん笑ったが、扱ったテーマは『月』とほとんど同じものだったと思う。同じ台詞も出てきたし、いや意図的でないのかもしれないが。
何かを創ることは、そこにあるのに見えないものをよく見えるようにしたり、隠されているものを剥がしたり、見て見ぬふりをして蓋をしたものを皿に盛りつけたりするようなことなのかもしれない、と思った。
帰宅して、レンコンと豚トロを炒め煮にしたのを作って食べた。栗原心平さんのレシピは「うまいでしょ?ビール、飲むでしょ?」という声が聞こえてきそうで楽しい。
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