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SF映画みたいだ
2022年3月7日 (月) 22:41
私は「帰宅する」という行為が嫌いだと思う。だから家から1時間くらい移動すると、帰りたくなくなってしまう。もちろん自分の家は好きだし、長く電車に乗る時間もわりと好きだ、でも「帰るだけなんだよな……」と思うとなぜかすべてが億劫で、心底面倒だ、と感じる。
いや「帰るだけ」つったって、それが家なのだが……私は何を言っているんでしょうね。
そういうわけで(どういうわけだ)、1時間半も移動したら、もう帰らない。適当な宿を取り、そこで眠る。3,000円くらい出せば湯船につかって体をきれいにし、清潔なシーツのお布団で寝られるの、すごいことだ。
といっても帰るのを次の日に持ち越しているだけだから、特になんの解決にもなっていないけど、でも夜遅い時間に電車に乗るよりはお昼ごろか、夕方に電車に乗る方が気が楽なんだよな。理由はわかりません。検証もしない、細部を無視していく。
こういうとき、たいていはカプセルホテルに泊まる。ガラガラに空いているカプセルホテルはしんとして、空調設備のまわる音だけが聞こえる。私に与えられた2畳くらいの空間で、眠くなるまでラジオを聴く。
SF映画みたいだ。ここは私に与えられた唯一のプライベートなスペースで、この建物は宇宙船なんだ。地球にはもう二度と帰れないし、これから行く先は知らされていない。満員になるはずだったこの宇宙船に乗っているのは、私と、さっきシャワー室ですれ違ったピンクの髪の女の子だけだ。操縦とかは、どうなっているんだろう。酸素とかは、どうなっているんだろう。
不安だから、私は地球から持ってきた缶ビールを飲んで眠る。明日の分の缶ビールはないし、ここではきっと手に入らないだろう、でも仕方ない。だってもう地球には住めないんだから。
さみしい気持ちを紛らわすため、うつ伏せで枕に顔をくっつけて好きなバンドの曲を歌う。窓が無いのに風みたいな音がする。窓があれば、星が見えたんだろうか。SF映画みたいだ。
朝起きて身支度を整え、チェックアウトして通りへ出ると、SF映画は終わってしまう。人がたくさん歩いていて、車の音が大きくて、びっくりする。まぶしい。今日天気いいんだな。
私、SF映画結構たくさん観てるはずなのに、ディティールを思考する能力が極端に低いな、わはは。朝ごはん食べよう。ドーナツがいい。
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